基本検査で調べられない不妊原因
基本検査では、さまざまな角度から不妊症の原因を調べますが、基本検査だけでは原因がわからない場合、「原因不明不妊」と診断されます。しかし、妊娠に向けて治療を進めていくなかで、不明であった不妊症の原因がわかっていく場合も少なくありません。これは、内診、経膣超音波検査、子宮卵管造影検査などの基本検査では、卵管周囲の癒着や軽症子宮内膜症など骨盤内の微細な病変の診断が困難であるからです1)。
以下にあげるものは、基本検査でわかりにくい不妊に関係する代表的な障害です。
卵子ピックアップ障害
卵管は、排卵後に取り込まれた卵子と、腟から子宮内を通って進入してくる精子が出会って受精する大切な器官です。卵管が詰まっていると妊娠できませんが、子宮卵管造影検査の結果が正常で、卵管の閉塞が認められないものの、卵管の機能障害が起きている場合があります。たとえば、卵巣から排卵された卵子は卵管へ自然に入るのではなく、卵管の先端にある卵管采(らんかんさい)(図1)が動いてキャッチすることで取り込まれますが、卵管采の周囲が何らかの原因で癒着していると、うまく卵子を取り込めなくなります。これを卵子ピックアップ障害といいます。
図1 卵管
軽症子宮内膜症
子宮内膜は子宮の内壁の表面にあり、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンによって増殖し、妊娠する準備をしています。子宮内膜症は、子宮内膜という組織が、子宮の外で増えてしまう病気です。子宮内膜症があると必ず不妊症になるというわけではありませんが、病状が進むにつれて、卵管と卵巣、子宮、腸管などとが癒着を起こしやすくなり、卵巣からの卵子の放出や卵管内の受精卵の移動などが妨げられ、妊娠しにくくなる可能性があります。また、骨盤内に炎症を引き起こし、受精や着床を妨げることもあります。
卵活性化障害
通常、卵子内に精子が入ると、精子が持つ卵子活性化因子の作用で、正常に受精が進みます。このメカニズムに支障があると正常に卵子が活性化されません。原因は、加齢による卵子の老化の場合が多いのですが、近年、精子が原因による卵活性化障害も指摘されています1)。
着床障害
基本検査で、粘膜下筋腫(子宮の内側に向かって発達する子宮筋腫)や子宮内膜ポリープなどが認められると着床障害のリスクが高まりますが、そういった疾患がない場合でも着床障害になる場合があります。原因はいくつか考えられますが、たとえば胚(受精卵)の染色体異常があると着床しにくく、流産が多くなります。
腹腔鏡検査
不妊の決定的な原因が不明な場合や、卵管・卵巣に異常が疑われるような場合は、腹腔鏡検査が行われることがあります。腹腔鏡とは骨盤内の臓器を直接見るための直径3mm程度のスコープです。おなかに穴をあけ、そこから腹腔鏡を入れて子宮や卵管、卵巣などをモニターで観察します。
腹腔鏡検査では、子宮卵管造影検査ではわからない卵子ピックアップ障害などを発見でき、子宮内膜症や卵管周囲の軽い癒着などはそのまま手術を行い、治療することができます。ただし、卵管の閉塞などの卵管性不妊は生殖補助医療(ART)によって妊娠が可能になるため、腹腔鏡検査や手術をしなくても不妊症治療を進めることができます。
1)日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会(編集・監修): 産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2017, 日本産科婦人科学会事務局
2)Kashir J, et al. Hum Reprod Update. 2010; 16(6): 690-703.
《参考文献》
吉村泰典(監), 生殖医療ポケットマニュアル. 医学書院 2014
竹田省,田中温,黒田恵司(編), データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針. メジカルビュー社 2017