不妊の当事者は、夫婦2人
日本の不妊症治療は女性中心の傾向が見られ、男性不妊への理解はまだ不十分です。
不妊症への対処で重要なことは、先入観や固定観念にとらわれず、不妊は2人の問題であると夫婦で認識することです。ともに自分自身の体と向き合い、相手への理解を深めながら、解決に向けて協力していくことが望まれます。日本産科婦人科学会による不妊症の定義を踏まえれば「望んで1年、兆しなければ、2人で受診を」といえるでしょう。
夫婦で受診し、双方に何らかの原因がないかを明らかにするところから始めることが、適切な治療に結びつく早道で、負担の少ない方法です。どちらか、あるいは両方に原因が見つかれば、寄り添いながら、必要な治療を進めていきましょう。特定の原因が見つからないこともありますが、原因不明であることを確認することも治療の方向性を検討するには大切なことです。
元気な精子をつくれないことが大きな原因
男性の不妊の原因としては、(1)質のよい精子をつくることができない、精子をつくる機能に問題がある(造精機能障害)、(2)精子がうまく進むことができない、精子の通り道に何らかの障害がある(精路通過障害)、(3)性交がうまく成立しない、勃起や射精に問題がある(性機能障害)──などがあります(図1)。このうち造精機能障害が80%以上見られ、もっとも多いとされています1)。
図1 男性不妊症の原因
造精機能障害、つまり、元気な精子をうまくつくることができているかどうかは、精子の量や性状(精液の量、精液内の精子の濃度、精子の運動性、精子の形態など)を調べる精液検査によって確かめられます。それらの検査結果は、WHOマニュアルなどに示された基準値(表1)などと照合します。造精機能障害は、精子無力症、乏精子症(ぼうせいししょう)、無精子症、奇形精子症などに分類されますが(図2)、それらを合併している場合も少なくありません。
表1 精子の状態を調べる主な検査項目と基準となる値
ヒト精液検査と手技. WHOラボマニュアル 第5版 2010を参考に作成
図2 検査結果による精子の状態
量の多少だけでなく、運動性や形態なども調べて、精子の元気度が決まります。元気度の低い精子は、膣への射精後、その先の子宮や卵管を通って、授精の場である卵管までたどり着くことが難しく、たどり着けたとしても、うまく卵子に侵入することができない可能性が高くなります。
精液は繊細。手順通りに検査を
精液はとても繊細で、さまざまな要因によって影響されやすいことがわかっており、正確な検査をするため、一定の手順が決められています2)。検査前は2日以上7日以内の禁欲期間を設けることがすすめられています。また、1回の検査だけで判断せず、1か月以内に少なくとも2回行うことが望ましいとされています。2回の検査の結果に大幅な差がみられる場合には、さらに検査を行います。
原因はさまざま。生活習慣が関係することも
元気な精子を十分につくれない造精機能障害のうち、最もポピュラーな精子異常は、精子の数が少ない乏精子症です。また、造精機能障害を招く原因としてはっきりしているものとして、陰嚢の中に精巣が入ってない状態である停留精巣などが挙げられます。
ただし、原因がわからない場合のほうが多く、喫煙や精神的なストレス、下着によるしめつけなど、さまざまな生活習慣がかかわり、精子の元気を奪っていると推測されています。
1)湯村寧(研究代表者), 厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業, 我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究. 平成27年度総括・分担研究報告書 ダイジェスト版
2)日本泌尿器科学会(監), 精液検査標準化ガイドライン作成ワーキンググループ(編), 精液検査標準化ガイドライン. 金原出版 2003
《参考資料》
久慈直昭, 京野廣一(編), 今すぐ知りたい!不妊治療Q&A 基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで. 医学書院 2019
鈴木秋悦, 久保春海(編), 新 不妊ケアABC. 医歯薬出版 2019
成田収(著), 不妊治療 体外受精のすすめ 未来の赤ちゃんに出会うために(改訂3版). 南山堂 2019
日本生殖医学会(編), 生殖医療の必修知識 2017. 日本生殖医学会 2017