顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injectionの略)とは、卵細胞質内精子注入法のことで、生殖補助医療(ART)の1つです。顕微授精では、髪の毛のように細い管(インジェクションピペット)で1個の精子を卵子の卵細胞質内に直接注入して受精させます。
ICSIの受精率は、一般的に約70~80%といわれています。
顕微授精(ICSI)
「顕微授精」とは?
体外受精との違い
生殖補助医療(ART)の1つである、体外受精と顕微授精との違いも見てみましょう。体外受精も顕微授精も、「採卵」、「受精」、「培養」、「胚移植」を要する点では同じですが、採卵後の受精方法に違いがあります。
顕微授精は、顕微鏡下でインジェクションピペットを使用して精子を1個だけ吸引し、それを卵子の卵細胞質内に直接注入して受精させる方法で、受精率は一般的に約70~80%といわれています。
一方、体外受精は、シャーレ上で卵子1個あたりに約10万個の精子をふりかけて、培養庫のなかで自然に受精するのを待つ方法で、受精率は一般的に約60~70%といわれています。
顕微授精の方法
顕微授精には従来から用いられてきたICSI(顕微授精)、ピエゾパルスを用いたピエゾICSI、の2つの方法があります。
当院では、全件ピエゾICSI(顕微授精)の方法でおこなっております。
この2つの方法は、1個の卵子に1個の精子を直接入れることは同じですが、卵子の細胞膜の破り方に大きな違いがあります。
従来のICSI(顕微授精)
卵子の膜を先端の鋭いインジェクションピペットで物理的に破って、卵子の中に精子を注入する方法です。従来型の顕微授精では、針先を卵子に押し当てて卵子内への侵入を試みますが、針を卵子に刺しただけでは膜が破れないため、吸引圧をかけて膜を破ります。この針を刺す操作により、膜の弱い卵子は回復できず変性してしまうリスクがあります。
ピエゾICSI(顕微授精)
ピエゾパルスという機械的な微振動によって卵子の膜に穴をあけ、精子を卵子の中に注入する方法です。先端が平らなマイクロピペットを使用するため、卵子の中の組織を傷つけずに侵入が可能です。吸引によるストレスが従来の顕微授精より少なく、卵子の変性を軽減することができます。
精巣内精子による顕微授精(TESE-ICSI)
無精子症や精子の数が非常に少ない場合に射精した精液からではなく、外科的に精巣から精子を取り出し(TESE)、その精子を用いて行う顕微授精です。
※当院ではTESE自体は行っておりませんが、他院でTESEした精子をお持ち込みいただき、ICSIを行うことは可能です。
顕微授精のオプション
ご希望の方は医師にご相談ください。
IMSI(イムジー)
空胞の様な特徴を確認できるため、より形態が良好な精子を選別することができます。
そのため、ICSIの成績の改善が期待できます。
※ICSI後に正常受精率が低い、受精障害、反復流産や着床不全を経験した患者様を対象とします。
- ICSI
(400倍で観察) - IMSI
(1200倍で立体的に観察)
- オプション料金
- 11,000円(税込)
NEWPICSI(ピクシー)
成熟した精子はヒアルロン酸に結合しやすい性質があるため、精子の成熟度を判別することができます。
また、PICSIではICSIに比べ受精率、妊娠率ならびに流産率の改善が期待できます。
※ICSI後に正常受精率が低い、受精障害、反復流産や着床不全を経験した患者様を対象とします。
- ヒアルロン酸に
結合していない精子
(全体的に動いている) - ヒアルロン酸に
結合している精子
(頭部が止まったまま)
- オプション料金
- 22,000円(税込)
顕微授精の適応
顕微授精は、重度の男性不妊の方や体外受精で受精障害のある方などに適応しています。
重症男性不妊症
重症乏精子症、精子無力症、精子奇形症、不動精子症などが対象です。精子の数が極端に少ない、極端に動きが悪いなどの原因で、体外受精では受精することが難しいと考えられる方に顕微授精を推奨しています。
体外受精で受精障害があった方
すでに体外受精をおこなった方で、全く受精しなかった場合、あるいは受精率が非常に悪かった場合も対象となります。また、抗精子抗体を持っている方も対象となる場合があります。
顕微授精のリスク
胎児への影響
顕微授精は、人為的な操作により卵子内に精子を注入するため、胎児への影響を懸念する声もありますが、現在、胎児への影響は医学的に証明されていません。胎児に何らかの異常が発生する確率は、自然妊娠と比べても差がないことが報告されています。
現在日本では、顕微授精によって年間数千人以上の赤ちゃんが生まれており、危険な治療法ではないと考えられます。
ただし、染色体や造精機能関連遺伝子の異常による無精子症などの場合に、顕微授精を実施することも少なくないため、胎児が男児の場合は、同様に染色体や造精機能関連遺伝子の異常を継承する可能性があります。
顕微授精に関してよくある質問
顕微授精に関して、患者さまが気になる質問についてお答えいたします。
顕微授精で受精しない可能性はありますか?
顕微授精を実施しても、必ずしも受精できるわけではありません。受精するには、卵子の中に精子を注入したあと、卵子が活性化する必要がありますが、何らかの原因によって活性化せず、受精に至らない場合があります。その他、卵子の状態によっても、受精がうまくいかないことがあります。
顕微授精後の日常生活で気をつけなければいけないことを教えてください。
顕微授精によって得られた受精卵(胚)を子宮に移植した後は、激しい運動は避け、いつもどおりに過ごすように気をつけましょう。普段からこなしている仕事や家事、軽いランニングやストレッチ、ヨガなど、身体に負担が少なく、リフレッシュ程度の運動であれば問題ありません。また、母体及び胎児へのさまざまな影響を考えて、禁酒、禁煙を心がけましょう。
監修医師紹介
- 経歴
- 帝京大学医学部付属溝口病院勤務
- 母子愛育会総合母子保健センター愛育病院
- 国立成育医療研究センター不妊診療科
- 緑風荘病院 血液浄化療法センター
- 六本木レディースクリニック勤務
- 資格・所属学会
- 日本産科婦人科学会 専門医
- 日本産科婦人科学会
- 日本抗加齢医学会
- 日本産科婦人科内視鏡学会
体外受精・不妊治療の六本木レディースクリニック